全身麻酔法と精神鎮静法

　医科でも歯科でも全身麻酔法や精神鎮静法は実施されますが、この二つは全く異なるとお考えください。精神鎮静法に限って言えば、意識を失わせることなく歯科治療中の不安や恐怖心を取り除くことを目的とする管理方法となります。意識があり、筋弛緩薬は使用しないので咳反射、嚥下反射、嘔吐反射は残りますがまず第一に歯科治療が実施できることが重要になります

○全身麻酔法

麻酔薬により患者様の意識を消失させ侵襲による疼痛を感じさせなくする方法。

　意識は消失するため、不安はない・時間の経過は感じない・痛みを感じない。

　手術中については何もわからない。

　意識を消失させる・痛みをとる・体の動きをなくすことが要件（可能）。

筋弛緩薬を使用することが多くあり、呼吸・循環（血圧、脈など）が大きく変動する場合がありリスクがある。

○精神鎮静法

意識を失わせることなく不安感や恐怖心を取り除くことを目的とする。

歯科では、笑気吸入鎮静法と静脈内鎮静法（点滴を行う：正確には静脈確保が必要）がある。

除痛には局所麻酔が必要となる。

全身麻酔ほど呼吸・循環の変動は少ないが、バイタルサインの観察を行うことは必要となる。静脈内鎮静法ではある程度の経験は必要となる（歯科麻酔学会認定医など）。

歯科での鎮静法の適応患者様

　○歯科治療恐怖症の方

　○侵襲が比較的大きく、長い治療の場合（患者様の状態にもよります）

　○異常絞扼反射（嘔吐反射）の強い方

　○高齢者や全身疾患を有している方

 

 

 

 

　　　　　　　　　　　

 

笑気吸入鎮静法

使用する笑気（亜酸化窒素：N2O）の特徴

　○非刺激性でやや甘い匂いを持つ

　○気道刺激が少ない

　○導入、覚醒が速やかで麻酔作用は弱い

　○呼吸器・循環器系の抑制作用はほぼない

　○生体からの排泄が早い

笑気を鼻から吸入し口の治療を行いますので、鼻呼吸ができる方が適応になります。

静脈内鎮静法

静脈内鎮静法の実施前に禁食（６時間前まで）禁水（２時間前まで）を行うことが必要です。また、静脈内鎮静法実施後には意識が清明になり飲水できるようになるまでは帰宅できません（医院でお休みいただきます）。また帰宅にはご自身で運転する自転車や自動車は禁忌となります。

　○鎮静薬を静脈内に投与する。静脈確保（点滴）を行う必要がある

　○静脈内投与するため効果が確実である

　○全身麻酔法と比較して呼吸・循環への影響は少ないが、笑気吸入鎮静法と比較すればそれらへの影響は強い

　○全身管理の知識、技術は全身麻酔に準じて必要になる

　　　全身麻酔導入時の鎮静薬を使用することもあり、呼吸・循環抑制に対応する技術と知識が必要になります。効果は確実ですが、笑気吸入鎮静法より患者様の時間・費用も必要になるため、ちょっと実施して効き具合を見てみるということはできないと思われます。静脈内鎮静法を行うためには術者・患者様両者ともに多くの準備が必要になります。

 

 

　どのような鎮静法を使用して歯科治療を行うかは全身状態、疾患、症状の程度、歯科治療の内容などによって変わります。できるだけ鎮静を行わずに治療を行うことができれば効率的ですが、皆さんに歯科治療を受けていただけるように考慮したいと思っております。

 

 

参考文献：Text 麻酔・蘇生学　（南山堂）

麻酔への知的アプローチ（日本医事新報社）