口腔機能管理
- 2023年1月3日
- 全身疾患
明けましておめでとうございます。
本年もよろしくお願い申し上げます。
がんと口腔機能管理の話になります。
1、がん相対生存率
2、口腔機能管理
1、がん相対生存率
国立がん研究センターのがん統計によれば、ほぼ2人に1人はがんに罹患し、全がんの5年相対生存率は男性で62.00%、女性で66.90%になっています(表1参照)。さらに、前立腺がんでは99.1%、乳がんでは92.3%になっています。器官によって相対生存率ももちろん異なりますが、現在はがんに罹患したからといってすぐになくなるわけではなくその後にどのように生活の質(Quality of Life: QOL)を維持するかが重要な課題になってきます。また、がんの治療も様々な内容を考慮して3つの方法(外科療法:がんを切り取る、薬物療法:がんを薬で治すか小さくする、放射線療法:放射線を当ててがんを小さくする)が併用されることが多くなります。2人に1人ががんに罹患するのであれば、歯科もがんの治療前、治療中、あるいは治療後と関わる機会が多くなり、適切な口腔機能管理が必要になってきます。歯科としてのQOLの維持は、感染をできるだけ抑えて、いつまでも口から美味しく物を食べていただくための環境づくりになると考えています。
表1
2、口腔機能管理
口腔機能管理はがんに罹患する前から必要になってきます。歯科治療は治療内容によっては週に1回で数ヶ月かかるものもあります。がんに罹患して、翌週に手術をします、明日から放射線治療をします、というときに歯科治療を開始することは、がん治療をスムースに行う上で障害になる場合があります。また、全身疾患の治療を優先するために歯科治療を早く完了しなければいけない場合には、短期間に終了する手技(抜歯等)を選択しなければならないこともあります。このような選択は患者様にとっても好ましいことではありません。日頃からご自身の口の中を把握することは自分の体を知って病気に備えることにもなると思われます。
a. 手術前、入院中
がんの手術の場合ほとんど全身麻酔になると思います。その場合、口・鼻から呼吸を維持するため管を担当麻酔医の先生が気管(肺の手前)へ入れたり抜いたりするのですが(挿管、抜管といいます。図1参照)その際前歯がグラグラであるとその歯が脱臼あるいは脱落、被せ物が破損する場合があり危険です(危険な部位は図2を参照ください)。
グラグラの歯がないか、重度の感染が口にないか 手術前に確認します。時間があればグラグラの歯、感染している歯は抜歯し、入れ歯を作成してもらった方が良いでしょう。入院中、手術後は口の中の清掃が困難になるために歯石除去はできるだけ行っておくと入院中のケアがしやすくなります。
口腔ケア用品、入れ歯があれば必ず持参して入院、特に術後の食事摂取に備えましょう。食事ができ点滴が取れて歩けるようになれば退院も早くなります。
図1.
図2.
b. 手術後、薬物療法中
現在の薬物療法は患者様のQOLを確保するために外来診療で行われることが多くなります。そのため薬物療法中に歯が痛くなったと歯科医院へ来院される患者様も多いかと思います。薬によっては血液の成分が変動するものもあり出血しやすくなる、あるいは感染しやすくなるものもあり、口の中が重度の歯周炎になっている場合には歯周炎の悪化や出血が継続し摂食に支障をきたします。血液の状態はがん治療の担当の先生が把握していますが、情報提供を受けなければ歯科では状態は不明なため、情報のやり取りを行う場合もあります。
C. 放射線治療中、治療後
放射線治療中も骨髄などに影響を与え血液の成分に影響を与える場合があります。また、ある一定以上顎に放射線が当たってしまうと、抜歯など骨に影響を与える手技を行うと骨髄炎を起こし痛みや炎症が継続し抗菌薬を長期間投与したりQOLが極度に低下してしまいます。特に頭頸部癌、咽頭部のがんで放射線治療をおこなった患者様は抜歯する場合には十分注意しなければなりません。放射線治療の先生に情報をいただいて歯科治療の制限を確認します。
がんは高い確率でなる病気だからこそ、それに備えて幼少期から口の環境も整える必要があると思います。